エノキダケイコの日常

映画、本、旅行のブログを毎日楽しそうに書いているエノキダケイコの、それ以外の日常生活やお知らせを書くブログ。どれだけ書けば気が済むんだ!?

新国立劇場「デカローグ」プログラムA・B(1~4)2024.4.14~15

クシシェトフ・キェシロフスキというポーランドの映画監督がいて、テレビ用に作った「デカローグ」という10回シリーズの作品があるんだけど、なかなか日本では見るのが難しかったのを、新国立劇場でまさかの舞台化する!10本連続で!と聞いて、久しぶりに「クラブ・ジ・アトレ(優先予約できるメンバーシップ)」に加入してしまいました。

この監督の作品って、人間が誰でも犯しかねない過ちを、登場人物がまんまと犯してしまうんだけど、それを見る監督の視点が神様のように聖母マリアのように大きくて、どの作品もオチはないのに見ている自分の今までの過ちが赦されるような、不思議な感覚があるんです。少ない作品をゆっくり何度も見直す価値のある監督です。

ずーーっと見たかった「デカローグ」ですが、10本連続となると、休職中(かつ求職中)の身としては、そんなに先々の予定がわからないので、結局まとめ買いは難しく、「クラブ・ジ・アトレ」の優先予約の恩恵にはあずかれなかったのですが、割引でオペラシティのHUBに通えるのはちょっと嬉しい。

ずっと見たかった割に中身のことを何も知らず、現地でパンフレットを見て初めてこれが「十戒」を意味することに気づく始末。今回さっそく見る1~4はそれぞれ、「ある運命」「ある選択」「あるクリスマス・イブ」「ある父と娘」という副題がついているけど、それぞれが十戒のどれを表しているかは明確にはされていないようです。各作品内で主要人物たちは、危ない、そこは超えてはならない、というキワを超えたり踏みとどまったりします。

元の映画も素晴らしいんだろうけど、舞台も素晴らしいです。アパートの各部屋をかたどったキューブが並ぶ二階建てのセット。各回に合わせた装束で時折現れて、主要人物たちをただ傍観する共通の人物。たびたび登場する牛乳、流れる水の音。…こういう謎とかヒントとか、人間が陥る過ちとか、デヴィッド・リンチ監督の作品にもいつも登場するし、あの監督も決して罪深い者を弾劾することはないんだけど、全部なんか怖い。深淵からこちらを覗かれているような感触があります。一方のキェシロフスキ監督の作品は、全部、罪を犯しても踏みとどまっても同様に赦してくれる。見終わったあと、安心して普段に戻っていける。

個別の感想も書きます。

1「ある運命」はコンピュータープログラムの予想に反する事件が発生する、父と子の物語。聖母マリアのような叔母を演じるのが高橋惠子です。最初がこれっていうのは、なかなか辛そうだけど、私は2と4を最初に見て、この順番で良かったと思っています。父を演じたノゾエ征爾に感情移入するし、子どもたちの演技も自然で可愛らしく、胸を打ちます。

2「ある選択」重い病気で入院している夫と、愛人の子どもを妊娠した妻。同じマンションに住む夫の主治医との会話にもケンがあります。前田亜季益岡徹、人間のさまざまな局面を実感させる大人の演技です。

3「あるクリスマス・イブ」独身の女が、昔の不倫相手であるタクシー運転手の家に突然現れる。あれこれと無理を言ったり注文を付けたり、実に面倒でイヤな温難を演じる小島聖がまたうまいのです。運転手の千葉哲也も、ちょっとくたびれた感じがいいです。見終わったあと、自分自身のなかの面倒くさい部分が少しだけ赦せる気がしてきます。

4「ある父と娘」これも良かったなぁ。近藤芳正と夏子が本当に仲のいい、よすぎる親子のよう。話が進むにつれて緊迫感のあるやりとりが続きます。

それにしても出来が良い。とか上から目線で言うほど舞台のことはまったく知らないのですが、完成度が高いというか、細部まで凝っているというか、何と褒めたらいいのかわからずこんな表現になってしまいます。

芸術監督の小川絵梨子氏、イザベル・ユペールの「ガラスの動物園」といいこれといい、私のツボをぐいぐい押してきますね!もう一度ずつ見ようかな…それとも映画のBlu-rayセット買っちゃおうかな…。

お芝居や映画が大好きな人にはぜひ見ていただきたい作品であることは間違いありません。

特別展古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン@東京国立博物館 2023.7.26

このところ、見なきゃいけない展覧会が多くて困る。仕事一段落したので、ランチを食べに出て、今日なら行けるなと思い立って行ってきました。

時系列順にいうとテオティワカンメキシコシティ近郊)、マヤ(パレンケ、トニナ、チチェン・イツァ。ユカタン半島)、トルテカ(トゥーラ。メキシコシティ北)、アステカ(テノチティトラン、メキシコシティ近郊)。

私がテオティワカンに行ったのは2017年の年末。キューバに行くツアーがエアロメヒコのフライトで、メキシコ観光が1日付いていたので行ってきたという消極的な理由でした。ハバナ国営ホテルで0時過ぎまで「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・バンド」の演奏を聞いて、ホテルに戻ったら寝る暇もなく起こされたのが3時、一睡もせずにテオティワカンへ直行して目を廻しながら太陽のピラミッドに登ったのでした。崩落の危険があるため、頂上の周囲に黄色いテープがぐるっと巻かれていたのを記憶しています。

予備知識ゼロで行き、帰って来てからも復習しなかったので、最後のチャンスだと思って真剣に展示を見てきました。

感想。昔の人たちの芸術センスが素晴らしすぎる。手のひらサイズの人型の工芸品が、どれもあまりに精緻で。ちょっとアジア人っぽい容貌の人たちが、ユニークな造形のカラフルな装束でそこに小さくいるのが、なんともいえず不思議で美しい。現代中国のアーティストの作品と言われてもまったく違和感ない感じです。

数十人~数百人のいけにえを伴ってピラミッドから発見された王妃の身体は、石室から体中まで全部真っ赤に塗られていて、その上にヒスイを組み合わせて作った仮面が載っている。なんとも激しい人たちです。発掘された本物の仮面や貴石が、赤い石室を模して展示してあるんだけど、ビデオやイラストでその説明を見た後、なぜか意外とこじんまりとして感じられて、本物の展示のほうが人がいなかったのがまた不思議な感じです。

ピラミッドは、登りたくなるのが人情で、頂上から見下ろすことに無性に満足感をおぼえるんだけど、重要なのはピラミッドの奥底の石室の方なんですよね。とんでもない重要なものや、信じられないくらい大きくて重いものをわざわざ運んできてくれて本当に感謝です。

SPARKS@LINE CUBE SHIBUYA 2023.7.25

大好きなミュージシャンや俳優の訃報が相次ぐ昨今、今年も彼らのライブが見られるなんて。77歳と74歳のメイル兄弟。今夜のステージも素晴らしかったです。

ANNETTE以降、しょっぱなは「So May We Start」が定番でよし。

2001年の初来日公演はアルバム「Balls」の頃。兄弟と確かタミーちゃんっていうイケてるお姉ちゃんのパーカッションだけのシンプルな構成だった。このアルバムタイトル曲も今日やってくれた。2006年の来日のときはCGをたくさん使った演出だった。2002年の「Lil Beethoven」からの「My Baby’s Taking Me Home」はタイトルのリフレインが延々と続く、どこかもの寂しい耳に残る曲。これも、あの頃のなんとなくマイナーなステージを思い出してしまう。

「Halfnelson」まで含めて全部のアルバムを買った私だけど、今日やった「Woofer in Tweeter’s Clothing」からの「Beaver O'Lindy」は忘れてた・・・。「Angst in My Pants」みたいな微妙に地味な曲は知らない観客も多そうだけど、楽しいこの曲の歌詞の意味を知ったら・・・。あと、「This Town」はみんな知ってるからいいとして、同じ時期の「Propaganda」から「Bon Voyage」は変拍子すぎて初めて聞く人はクラップしづらいと思う。その逆の「Music that You can Dance to」は彼らにしてはとてもシンプルな楽曲だけど、誰でもすぐにリズムが取れてすごく盛り上がる。ロン兄が語る「Shopping Mall of Love」も同じアルバムなのか。なんとなく「Seduction of Ingmar Bergman」にありそうと思ってしまった(両方持ってるのに記憶が、、)。

何度やってくれても嬉しい名曲「No.1 in Heaven」「When I Get to Sing My Way」。「When I'm with You」も佳曲、まさかの「Plagiarism」から。「Interior Design」はあまり聞きこまなかったので「The Toughest Girl in Town」も覚えてなかったけど、復習でMVを見てみたら昔の映画みたいで素敵です。

ニューアルバムからはもちろん「The Girl is Crying in Her Latte(ケイト・ブランシェットがいなくて淋しい」「Nothing is as Good as They Say(生後22時間の赤ちゃん談)」「Escalator(Bullet TrainやiPhone系の楽曲)」「It doesn’t Have to be That Way」、「We Go Dancing」アンコール前は「Gee That was Fun」。最後の最後に盛り上げて締めてくれた「All That」は「Steady Drip, Drip, Drip」からか。

もっと完全なセットリストは他のサイトに載ってますが、いつから聴き始めたファンにも優しい、まんべんなくカバーした曲目ですね。(FFSすごく好きなので1曲くらいやってほしかったなー)

彼らのライブが椅子のあるコンサートホールで見られるなんて感動だけど、「お兄ちゃーーーん!」って声援を送るのがはばかられるほどステージ遠かった。もう彼らを見に行く人は「クラスに一人はいる変わり者のみなさん」ではないのだ。他の国ではスタジアムでやってるのだ。それは決して寂しいことではなくて嬉しいことなのだ。

今回実は初めて、彼らのニューアルバムを買わずにライブに行ったんだけど、Spotifyでかなりリピートしたので十分楽しめました。今まで必ず一番高いエディションを買ってたのになぜ?熱が冷めた?・・・ではなくて、そろそろ私も荷物を減らし始めて終活に備えようと思ったんだけど、健康にしか見えない兄弟を見たらなんだか嬉しくなりました。若輩者の私のほうが先に行くかも?私もがんばって長生きして、彼らの200枚目のアルバムを聞かなくてはね・・・。

今夜もありがとう、ラッセル、ロン、スティーブン・ニスター、全サポートメンバー。

文学座公演「夏の夜の夢」@紀伊国屋サザンシアター 2023.7.7

日本の老舗劇団のひとつ文学座の「夏の夜の夢」を見てきました。小田島雄志翻訳、オーセンティックなシェークスピア劇です、セリフは。変わってるのは、妖精たちを村のむさくるしいおっさんたちが演じるという設定。オベロン&タイタニア夫妻の周りを、まだ舞台になっていないはずのおっさん妖精たちが取り囲む場面があったりして、ちょっと混乱したけど、楽しく濃い舞台でした。

少し前に珍しいバレエ版の「夏の夜の夢」を見たことを、このブログにも書きました。

blog.enokidakeiko.com

バレエの中でも特に可憐で可愛らしい作品だと思います。とにかく妖精たちの可愛いことといったら・・・、と感動したものですが、それをこっちでは、本物のおっさんがチュチュつけて演じます。これが不思議とちょっと可愛い。どんな人も可愛くすれば可愛いのかもしれない。(ほんとか)

妖精パックのキャラはいいかんじで強烈だし、ロバにされてしまうボトムはやっぱりおバカっぽくてなんとも愛嬌たっぷり。この二人の可愛さは性別や年齢に関係ないのだとみょうに納得しました。

バレエはもちろん歌もセリフもなく動きだけなので、”右脳で見て感じる”印象があるけど、こちらはすごく饒舌で理性をしっかり保たないとついていけません。1センテンスが長いし、倒置も多い。ただ、こっちのほうがストーリーが複雑ってわけではなく、語感や言い回しを楽しむ言葉遊びも多い。

舞台美術と音楽も特筆したくなる工夫がたくさんありました。音楽は芳垣安洋高良久美子によるパーカッションとマリンバの生演奏。ミニマルとはこのことですね。これだけで場の空気が決まるんだ。なんか雅楽みたいです。美術は、ワックスで作った小さな立体物をプロジェクションマッピングの手法で舞台上の幕に投影。元が小さなものだと思えない、複雑で壮大な世界を作り出していました。こういうのって技術の進歩で可能になった作り方だなと思います。

たくさんもらって帰ったチラシを見ていると、また舞台を見たくなって困る・・・。今年もいくつか見てしまいそうです。

新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」@新国立劇場 2023.6.11

2月に「コッペリア」を見て以来、ちょっとバレエにはまっています。言葉がなくても雄弁な身体で演じる世界って素敵。

先日見たのはシェイクスピアというちょっと変わり種だったので、オーソドックスなものも見たいなと思って「白鳥の湖」。なんとなく知ってるのは小さい頃「こどもバレエ」でも見たんだろうか。

今回、オデットは柴山紗帆、王子は井沢駿。オデットは繊細でか弱い役柄だから、というのもあるけど、まったく無駄のない身体で切なそうに踊るのが、もう弱っていく白鳥にしか見えません。王子は自分を貫こうとしているのに、まんまと罠にかかってしまい、絶望する・・・という心の動きがひしひしと伝わってきて、本人の若さや純粋さが演技にそのまま出ているように感じました。

衣装を見るのも好きだけど、今回は白鳥はイメージ通りの純白、王子たちも定番のように見えたけど、王様や王女たちの喪服やたっぷりした衣装、各国からの来賓のキャラ設定などが楽しかったです。あと、悪役っていつも魅力的。悪い演技ってほんとに面白い。

この次は、楽しくてカラフルな作品も見てみたいな、と思います。この次に「くるみ割り人形」やるときは先行予約しなくちゃ・・・。

劇団四季「オペラ座の怪人」@大阪四季劇場 2023.5.13

オペラ座の怪人」って、昔から何度も映画化されていますが、私が見たのは「オペラの怪人」というパリオペラ座を知らない人が邦題をつけたっぽい1925年のサイレント映画。おどろおどろしい雰囲気には惹かれたけど、ストーリーが複雑でなかなか頭に入ってこなかった記憶があります。それより「オペラ座の怪人」x「ファウスト」をアメリカンロックバージョンにした、ブライアン・デ・パルマ監督「ファントム・オブ・ザ・パラダイス」という映画がすごく好きで、そこからこの作品に興味をもったといっても過言ではありません。

最近なぜかオペラやバレエを見ることが多くて、一度はやっぱり劇団四季見ておきたいよね!見るならこの作品だよね!でも今東京でやってないね。大阪に行く機会があったら見よう!・・・そしてとうとうその機会がめぐってきました。

私が買ったのはA席9350円。すごく生意気をいうと、生オーケストラでないのに高いなぁってちょっと思った・・・。でも、本当にオペラ座という魅惑のホーンテッド・ハウスに足を踏み入れたかのような舞台美術が素晴らしくて、始まる前からちょっと鳥肌立ちました。

ゴシックな舞台美術は、劇中劇の上演演目に合わせてきらびやかに変化します。中心的なセットが巨大なのがいいんですよ。圧倒されるくらい大きいものって、特別な心理的効果があるように思います。エジプトのルクソールカルナック神殿みたいに。

衣装もカラフルで豪華。そして何より、出演者全員の歌がうますぎる。この日の怪人は清水大星、ラウルは岸佳宏、クリスティーヌは藤原遙香。支配人たちもダンディで素敵だったなぁ。オペラ座の怪人だから、オペラの歌い方をしてるんだろうか。クラシックコンサートとしても聴きに行ける気がします。

出演者についていろんなニュースサイトやインタビューを見て初めて知ったのが、メインキャストがとても若いこと。4~6人で交代しながら演じるので、年齢や経歴はさまざまなのかもしれないけど、こんなに歴史のある劇団のメインにこんなに新しい人がいるのってちょっと驚きました。でも、複数で同じ役を演じるからか、なんとなく服装やメイクは彼ら個人に合わせてあつらえたものではなく、個性が見えてこない、個人の魅力にもっと圧倒されたい、という気はしました。何度もさまざまなキャストで見てみたら、個性も見えてくるんだろうな。

ともかく、満足度たっぷりの豪華なエンターテイメントでした。いつかまた違う演目も見てみたいな。

(このあとガストン・ルルーの原作も読んで、復習もしっかりしました)

新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル マクベス/夏の夜の夢」@新国立劇場オペラハウス 2023.5.5~6

新国立劇場友の会」にたまたま入会し、演劇も見た、オペラも見た、バレエも見た。友の会の会費は、オペラシティの飲食店の割引で元が取れたので、もう何も見なくても大丈夫かも・・・と思っていた私ですが、どうしても一度挑戦してみたかったものがあります。それは「Z席」。公演当日の10時から発売される”見切れ席”です。S席13200円、一番安いD席でも3300円なのにZ席はわずか1650円。先日「コッペリア」で感動した新国立劇場バレエ団だし、シェイクスピアを踊るというのも私には新鮮に思えたので、9時55分にスタンバイして連打で購入。これが5月5日(金)のこと。私この劇場の公演って、発売日に買わないと全部売り切れてと思ってたんだけど、行ってみたら意外と後ろのほう(C席やD席)には空きがあります。5日と6日はキャストが入れ替わるし、Z席からはやっぱり舞台全体は見えなかったので、翌日の千秋楽のD席チケットも買って、2日連続で見てきました!(総額わずか4950円!)

 

【まず、座席について】

Z席は「舞台は見えません、声だけです」という条件で販売されています。とはいえ全く見えないわけではありません。むしろ「舞台全体を見るために乗り出してはいけない席」ですかね。4階席の脇や後ろに設定されてるのですが、私の席は(10時0分5秒くらいにクリックしたからか)左手いちばん前。一番前のほうに1列だけあるので、もしかしたら一番高いバルコニー席?などと妄想したことがあったけど違いました。言われたとおりに背中を背もたれにつけると、舞台の上手(向かって右手)1/3見えるかどうか。でもだんだん慣れてくると、お隣の方のポジションと自分の安全性をかんがみながら、迷惑にならない程度に浅めに座ると舞台半分くらいは見えます。とはいっても全体が見えないと何が起こってるかわからない場面が多く、もう少しおこづかいのある人はD席までを買うのが正解だなと思いました。ただ、すごく前の方なので演者さんたちの表情までよくわかるし、オーケストラピットが覗き込めるのはよいです。

6日のD席は、5日と反対、舞台むかって右手に近い4階席で、舞台全体とオーケストラの一部が俯瞰できるいい席でした。(※かなり遠いけどね)せっかくのダブルキャスト、片方だけこの条件で見るのはかなり偏っているので、感想もその辺は割り引いて見ていただければと思います。

 

【演目について】

マクベス

「夏の夜の夢」は妖精たちがいたずらをする可愛いお話なのでバレエ向きだと思うけど、「マクベス」は血で血を洗う復讐劇でバレエ化は難しそう・・・と思ったら実にこれが世界初演なのだそうです!すごいもの見た!

5日のマクベスマクベス夫人は奥村康祐と小野絢子。私のイメージどおりの堂々とした悪意あふれるカップル。自信過剰なマクベスと、知恵の回る妖婦。血の感触まで伝わってくるようなどろっとした味わいでした。

6日は福岡雄大と米沢唯。米沢唯はコッペリアではこのひと妖精だと思ったので、どうやって妖婦を演じるのか興味がありました。でも妖婦って感じではなかったな。どこかクールでドライな、腹黒いとか計算高いというより、悪魔が取りついたか、天性のサイコパスか、という趣き。そしてこの人はほんとうに表現が豊かなので、中欧あたりの画家がさらりと描いたきれいな悪女みたいに感じました。

 

・夏の夜の夢

5日の配役はオベロン速水渉悟、ティターニア池田理沙子、パック佐野和輝、ロバのボトムは福田圭吾。これすごく良かったなぁ。背中にちっちゃい羽根までついた妖精たちの可愛かったこと。池田理沙子の踊りはとにかく優美で品格があって可愛らしく、プリンセスという印象。パックの身のこなしはサーカスの軽業師みたいに軽くて、ロバくんは愛嬌たっぷりで何度も声を出して笑いそうになってしまいました。

6日はオベロン渡邉峻郁、ティターニア柴山紗帆、パック山田悠貴、ロバのボトムは木下嘉人。ティターニアは迫力たっぷりでどこかラスボス的。パックはちゃんとパックなんだけど、なぜか前日のほうがだいぶ軽く感じられました。ロバくんは、前日のほうが(※いい意味で!)アホっぽくて可愛かったなぁ。6日の演者さんたちのほうが、全体的に大人っぽくて達人感があったけど、この演目は若々しく軽く(+可能なかぎりバカっぽく)やっていただいてよいのかも、と思いました。

 

【全体的に】

私、ダンスを見るのって好きだわ。人の身体がこれほどまでに美しく動けるのか、と見るたびに感動します。これはダンスの種類問わず。オペラや演劇と比べて、言葉がないぶんバレエにあまり惹かれてこなかったけど、むしろ私がライブで見たいのはこっちだったかも・・・という気づきがありました。「Z席から見てみたい」という、だいぶ不順な動機で見に行ったのに、翌日もっといい席で見てしまうくらい。前にも書いたけど、ここまで研ぎ澄ませた芸術ってほんとに素晴らしいです。同じ人生なら、人間の暗いところ、悪いところに注目するより、人間の「粋(すい)」にときどきでもいいから触れるのって大切。

バレエ、また見ます。同じ値段なら、次はちゃんと先行予約でチケット取るわ・・・。