エノキダケイコの日常

映画、本、旅行のブログを毎日楽しそうに書いているエノキダケイコの、それ以外の日常生活やお知らせを書くブログ。どれだけ書けば気が済むんだ!?

TBスタジオ・Nプロジェクト共同企画「根っこ」

お芝居を見てきたので感想書いてみる。

著名劇団に所属する俳優さんたちが、少人数で作り上げた舞台。知り合いの関係でときどきお邪魔しますが、毎回、普通の人たちの日常に何かがきっかけで渦が起こる、こじんまりとしているけど不思議と心の中でカチッと音がするような印象深いお芝居です。

今回の「根っこ」は原題「Roots」、イギリスのアーノルド・ウェスカーという脚本家が1958年に書いた3幕の舞台です。人名や地名や職業などの設定も原作のまま。

昔からある作品なので結末にも触れますが、見たくない方は、どうぞこのあとは読まずにページを閉じていただけますよう…。

舞台はロンドンから遠い田舎町で、中心となる家族を構成するのは、地味な生活を送っている老夫婦、娘夫婦と息子夫婦とロンドンで働いている唯一都会的な末っ子。この末っ子がロンドンで付き合っている男がユダヤ人で「ソーシャリスト」と言ってますがコテコテの意識高い理屈派。東大の講堂で三島由紀夫と張り合ってたような、令和の世にはもはや現存しないタイプ。ただし彼は登場しません。彼に感化されて、よくわからないイデオロギーに染まった末っ子が、彼を実家に招待して、到着前になんとか田舎っぽさや泥臭さを隠そうとしますが、あっというまにほころびる。最後、彼がもう来ないことがわかって末っ子は泣き崩れるのですが、そのときの彼女の演説は「プチソーシャリスト」としての目覚めに満ちた意識高すぎる、家庭ではウザいやつに化しています。しびれを切らして、現れなかった彼氏のために作ったごちそうを食べ始める家族。

「この結末、笑っていいんだよね?」と思わずつぶやいてしまった。脚本家の意図は、意識高い娘に寄り添おうとしたのか、それとも市井の人々のおおらかさの勝ちなのか。

脚本家ウェスカーはイギリスのユダヤ人コミュニティで生まれ育ったコミュニストであり、投獄経験もある反原発活動家だった、と英語のWikipediaに書いてあって、めっちゃ左で真っ赤な人でした。でもなんとなく、こぶしを振り上げてがなり立てる自分を笑うような感じもあって、やっぱり普通の人の普通の暮らしが大切だよね、という草の根的な感覚も大事にした人なんじゃないのかな~。

進歩的な思想を嬉々として語る末っ子が、どこか「キューポラのある街」の吉永小百合と重なりました。(ほぼ同時期にそれぞれの原作が書かれてます)

主役の末っ子は松本祐華、近所の愛され老人は番藤松五郎、優しい姉に山内理沙、末っ子と始終どなり合っている母に華岡ちさ、全員は書ききれませんが、自然かつ熱の感じられる、親密な舞台でした。

小舞台を見に行かなかったら出会えなかった、興味深い作品。こういうの映画化とかしないのかな。今はスマホで撮影できたりするから、何か違う形でも作ってみたりしたら面白いかも…なんて思ったりしました。